ことのはぐさ

2024.01.18 弁護士 青木佳史|自転車のヘルメット着用義務


 最近、街中で、シュッとしたスポーツ用のヘルメットを着けてさっそうとママチャリを走らせているおばさんを見かけました。いつも自転車で事務所に打合せに来られる依頼者の方が抱えてきた裾にフリルのついたエレガントな帽子は、よく見ると自転車用ヘルメットでした。「私の誕生日に息子が贈ってきましてね、これなら頭も蒸れないし、なかなかいいんですよ」とのこと。

 そうでした、今年、2023年4月1日から道路交通法が改正になり、新たに自転車にも乗車用ヘルメットの着用が義務化されたのでした。

 正確には、自転車を運転する人、及び、自転車に人を乗せる人(二人乗り)は、乗車用ヘルメットをかぶることが努力義務になりました(道路交通法63条の11第1項、2項)。また、児童や幼児が自転車を運転する時は、親などが、児童や幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせることも努力義務になりました(同条第3項)。

 最近、自転車事故が増加していますが、平成30年から令和4年までの統計によれば、自転車事故で死亡した人の約6割が頭部に致命傷を負っています。そして、ヘルメットを着用していない場合の致死率は、着用している場合と比較すると約2.1倍も高くなっているそうです。私が担当した交通事故で高次脳機能障害の重い後遺症が残ってしまった方も、ヘルメットを着用していれば、もう少しどうであったろうかと思います。

 起こらないように注意していても起きるかもしれないのが交通事故です。自転車は特に体を守るものが何もありませんから、頭部を守ることが重要です。これまでも、小中高校では自転車通学の条件としてヘルメット着用を義務づけたり、東京都などいくつかの自治体でも先立って条例で義務化をしてきましたが、いよいよ全国一律となったわけです。

 今回の義務化は、「努力義務」なので、違反した場合の罰則や反則金は定められていませんし(ただし、今後は反則金の導入も検討されているようです)、バイクや自動車のような点数制もありません。では法的にはどんな効果があるのでしょうか。もちろん自転車に乗る人が自分やお子さんの命を守るための自覚的な着用を促すことが一番の狙いでしょう。それに加え、万が一事故が起きてしまった時の損害賠償額(保険金額)の算定をするにあたって、ヘルメットを着用しないまま頭部にけがをしたり命を落とした場合には、自転車の方の過失として考慮され、過失相殺として損害額(保険金)が減額される事情になります。東京都では条例でヘルメット着用の努力義務を定めていましたが、東京地方裁判所令和4年8月22日判決では、努力義務といえどもヘルメットを着用していなかったことは自転車側の過失にあたるとして、損害額の10%を減額しています。今後は、全国で同じような判断がなされることが予想されます。

 警察庁が義務化の効果を調べたこの7月の調査によると、全国平均は13.5%だそうです。ちなみに大阪は、下から4番目の4.2%。たしかに、ヘルメット着用している自転車がめっきり増えたという感じはありません。ヘアスタイルが乱れる、蒸れる、かぶるのがめんどう、などでしょうか。そんな中、愛媛県は、59.9%とダントツの全国一位です。朝日新聞(今年12月6日)の記事によれば、2014年に起きた高校生1年生の自転車での死亡事故を教訓として県立高校での義務化や無償配布、県民全体での意識改革が進められてきた結果とのことで、義務化以降、死亡事故はなくなっています。

 ネットを見ると、工夫された格好いいヘルメットが次々と出てきているようなので、安全基準も確認しながら、私もまずは試してみようと思います。

 


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